富士の高根に

金曜日、仕事を20時過ぎに切り上げて帰宅、そのまま部屋の隅に転がっていたカメラバッグを取って駅に引き返す。金曜日の夜、ちょうど帰宅ラッシュのあたりで、駅からは続々と人が吐き出されて普段俺が帰るときにはもう人影も品物もまばらなスーパーもまだお客さんで一杯、静かに一週間を終えようとしている。普段はまだ残業中の時間、そんななか巣鴨から湘南新宿ラインに乗る。新宿、渋谷、そのまま電車は西へ。
 久しぶりに友人と撮影に出かける。大学のころからもう15年こういうことを同じ友人達と続けている訳だが、それぞれ結婚したり大事なものがあったりでめっきり機会も減ってしまった。そして、この春に東京を離れるとなおさらちょこっと撮影に、というのは難しくなるだろう。まあくるだろうけれども。

東京を離れる前にまだ見ておきたい風景がある。静岡は由比から見る富士山もその一つだ。有名な東海道本線の撮影地、富士山と海と、ほかに何もない風景なんだけれども。ということで夜更けの東名を西へ西へ下る。轟音を立てて真紫のエアロキングが抜いていった。側窓には「64号車大阪行」の表示。どうやらツアーバスらしい、まだ盛況なんだな。
いろいろもう何年も続く無駄話をしている間に、高速を行き過ぎたりしながら由比についた。目的地は静岡県庵原郡由比町のさった峠、さらに山道をしばらく登って人気のない駐車場にて泊。人口の明かりが何もない山中を展望台まで20分ほど歩いてゆく。星明りで歩く、というのは何年ぶりの体験だろうか。
富士山が見えるとバルブ撮影、ということになるのだろうが残念ながらまったく見えない。海の向こうには漁船の明かり、対岸の伊豆の明かりがぽつぽつと見える。そして真下には絶え間なく流れる東名高速とR1の光の帯。日本の物流はここで支えられているのだな、そう思わせる光の帯だった。