三信ビルにて

秋が近くなったとはいえ、まだまだ都心はムッとするようなコンクリートの放射熱というのか輻射熱というのか、白々とした熱と光で満ちています.建物の中は涼しくても、ますますそのおかげで外は暑くなる、法則から言えばいと自然なことなのでしょうが、やはり不自然だなあとは思いますね.建物の中がより快適になるほどに.地下鉄のコンコースや通路の暑さも耐え難いものがあります.東京で生活していくというのはこういうこととも付き合っていくことなんだなあ、と実感します.もちろん、関西の暑さなんかも耐えがたかったですけど.

そんな外出の日、昼を調整して三信ビルのニュー・ワールド・サービスへ.

昭和4年竣工のこの三信ビル、何度か書いてきましたが解体が間近に迫っています.
久しぶりに行って見ましたが、一階の海側半分以外はすべて閉鎖、残っているテナントはニュー・ワールド・サービスの一軒のみ.アーケードのアーチも、失われていくものといった風情でひっそりとたたずんでいます.廊下を歩くと、意外と足音が響いてびっくりしました.


相変わらず時間が止まったかのような店内、サラリーマンの客が二組いつとも尽きぬ話をしています.
この三信ビルに進駐した進駐軍相手に始まったというハンバーガーなんぞ早めの昼食にいただきながら、ぼんやりと考え事をしておりました.

このビルに出会ったのは1年ほどまえですからつい最近、もう3階以上のオフィステナントはほとんど出てしまって、店舗も空きが目立ってきた頃からでした.活気のある時代はもちろん知りません.ただ、まったくテナントさんが出て行ってしまった廊下はまたわずかながらでも人通りがあったあの日とはまた違って本当にひっそりとして、時の流れに飲み込まれて消えていくもののように沈んでゆきます.
もう少ししたら、このビルそのものがゆっくりと沈んでいくのです.