ニユー・ワールド・サービス

解体を前にテナントがすっかり歯抜けになったアーケード、通り抜ける人もあまりいないのですが、所々残った店には常連さんと店の主人とのゆったりした会話、一角の富士フィルムのギャラリーを訪れる愛好家などでゆったりとした時間が流れます.伝票を届けに外出したのをいい事に、東京駅から10分程歩いてまた三信ビルにやってきました.
一階の数少ないテナントの中、最後まで残った飲食店があのニュー・ワールド・サービス.1948年の開店当時のままのインテリア、バーのような喫茶店のような不思議な店内は長年のタバコのヤニと、暗めの白熱灯で全てが黄昏色に染まっています.映画に出てきそうな、きちんとスーツを着た猫背のマスターは慇懃にメニューをとって帰ってゆきます.店内は長年ここに通ってそうな商談をしているサラリーマン、映画の話をしているご婦人などで8割方席が埋まっています.もうすっかり弾力が失われたようなソファに座ると、ウェイターのご主人がクリアファイルに入った手書きのメニューをもってやってきました.すべてが時代を超えてゆっくりと時が流れてゆきます.

のんびりと、いやあずいぶん寄り道しちゃったなあと思ったころにやってきたのは注文したカツカレー.手作りそのもののカツの色、なぜかハヤシライスとカレーライスを足して2で割ったような味は家庭的で美味でした.そういえばここって、GHQの将校から直接ハンバーガーのレシピを聞いたとかで、ハンバーガーの発祥の地とか何とか.もう残された時間はあまりないのですが、今度食べて見ようと思います.ゆったりとした時間、外を見ると摺りガラスを通してやさしく冬の日が差し込んできました.
さらにコーヒーまでのんびり飲んでいると、さすがに昼休みも終ろうとしています.机の上に残されたのは、一枚の伝票.アンテナに入れさせていただいているKai-Wai探索さんのところに写真が載っていますが、活版印刷と思しき英語だけのシンプルな伝票でした.レジにいくと出てきたのが、これまたドラム式の「金銭登録機」と呼ぶのがふさわしそうなレジスター.残念ながら単なるドロアーとして使われているようですが、動くところみたいなあ.
 建物を出るといつもの日常が待っています.帰ると机の上には、今日中に入力しないといけない伝票とか朝いただいた宿題用の資料とかが散らばっているはずです.資金繰りの予定とかの質問も乗っかっているんだろうなあ.しかし、そんなものがこの建物に積み重なった時間に比べるとどんな意味があるのかなあ、そう思ってしまうひと時でした.