町の中で生きているはずなんですが

日が傾くと、すうっと気温が下がりだしました.長野の北部、白馬村に住んでいた頃の冬はこんな感じだったなあ.空が白く、青いです.

さてそんな夕方、近くのスーパーに夕食の買い物に行こうと自転車に乗って家を出ました.家のすぐそばの交差点、凍っているので人も車もそろそろと走っています.ふと一人のおじいさんが車をよけているのに目がいきました.かなり冷え込んでいるのにジャケットはともかく下はスウェットにサンダル、すれ違いざま、手に抱えている荷物が見えました.傘が二本、白いのは・・・トイレットペーパー?
 通り過ぎてずっと向こうで振り返ってみると、丁度角を曲がって見えなくなるところでした.ゆっくりゆっくりとした足取りです.

スーパーに向かったんですが、さて今のおじいさん気になります.連れが介護施設でバイトしてたことがあるんですが、やはり気になる様子.途中で引き返してみることにしました.その間10分ほどでしょうか.探してまもなく、すぐ近くの交差点で信号をまっていらっしゃいました.道を尋ねてみたんですが、要領を得ません.九州に今住んでいて、学生のころ住んでいたココに友人を訪ねてこられたこと、でも昔から一変していて分からなくなってしまったこと、ぽつぽつとお話を聞くことが出来ました.持っているのは他になぜかプラスチックのざる、電池.徘徊・・・・の疑いが濃厚です.
100mほど先に交番があるんですが、この2年ほどの合理化で無人交番になっています.とりあえず近くの交番から警官を派遣していただけるようにお願い、おじいさんに交番のほうに来ていただきます.おじいさんとはいえ身長180cmあまり、正直なにを考えているのかわかりませんし、なかなかうまくいきません.連れと一緒に交番を通り過ぎて、ずっと先の交差点を曲がってしまって見えなくなってからさらに10分、最初に近くの交番に電話してから30分ほどたってようやく警官が自転車に乗ってやってきました.

さて、そういうわけでなんとか交番の中でお話を聞くことに.なんでか一緒に聞くことになりましたが、さてどうしたもんでしょう.爪もきれいに切ってありましたし、ずっと一人ということはなさそうです.名前はお伺いできたのですが、住所が記載されたものを全くお持ちではありません.ぽつぽつと昔のことをお話になるんですが、やはり警官って威圧感あるんですかね.口調が強いし、警戒されている様子です.家出人照会などをされますが該当がありません.外はあっという間に暗くなりました.いやあ、まあよかったというべきでしょうか.
やがて、ふと「昔住んでいた」という番地を思い出されました.町名がここならばすぐ近くです.警官が調べると、該当の家は同じ苗字であること、やはり、といった感じです.
とりあえずよかった、と警官が電話をかけます.ところが何度かけても話中.ご家族の方がいれば心配されて電話をかけているのか?とも思ったのですが、それにしても長すぎる.もう30分ほどがさらにたっていました.
そこで、警察署から連絡があって、びっくりする事態が分かりました.その家、一人暮らしのおじいさんが住んでいるはずだ、というのです.ということはこのおじいさんが一人で住んでいる、ということでしょうか.電話が話し中なのは、何らかの理由でフックがあがったままになっているということでしょうか.これはびっくり.それこそいったん家を出たら誰にも分からないわけです.パトカーで家までお連れすることになり、ようやく俺も交番から解放されたのでした.

はっきりしたデータが分からなかったのですが、こういう独居老人、かなりの数になるんではないでしょうか.そこでいったん問題が起こったら、それこそ誰にもわからずに死と直面することになってしまいます.おそらく、このおじいさん、爪がきれいだったりしたのは日中だけヘルパーが来るということでしょうか.そうなると、夜は一人きり.で、一旦家をでたらおそらく二度と家には帰れないでしょう.もしかしたら、昔は隣とか近くで声を掛け合うことで命が繋がれていたのかもしれません.しかし、こういう風にだんだん社会の網の目が広がってゆき、だんだん広くなる網の隙間からは多くの人がこぼれ落ちていっているような気がします.頭では分かっているつもりなのですが、実際に目の当たりにしてかなりの衝撃を感じました.
社会、というのは一つの共同体だと思います.合理性、という視点からだけだと何か大事なものが漏れていっている・・・んでしょうね.
とりあえず、しばらく考えて見たいところだと思います.