渡良瀬界隈

久しぶりに渡良瀬にやってきました.何年か前の夏の暑い日、まだ単車に乗っていた頃に来て以来の渡良瀬川.中の人を駅まで送ってから関越道で本庄児玉、そこから国道、県道と乗り継いでいくのですが、高速から離れているのでなかなか遠いです.大間々の町に入ったのはもう昼過ぎでした.なかなかいけないんですよね、遠くて.

大間々から線路は山に分け入ってゆきます.道路はしっとりと雨に濡れ、木々から雫が落ちてくる、そんな静かな午後.上を見上げると山を雲が次々と横切って頂を隠します.昼下がり、列車本数も少ないのでゆっくりと写真を撮りながら上流へ上流へ.俯瞰がしたくて対岸上って見下ろす場所を探しますが、なかなかありません.せっかく見つけた対岸の道路も災害復旧中だったり、作っている気配はまったくないのですが永遠に工事中だったり.足場も悪そうだし、まあ今日は無理をしないで、あちらこちらに走り回るだけにとどめておきましょうか.


まったく知らなかったのですが、ここわたらせ渓谷鉄道もちょうど今が紫陽花の見ごろのようでした.もちろん沿線紫陽花尽くしの箱根登山のようには行きませんが、沢入(そうり)の駅なんてもう見事な物で、あまり知られていないのが不思議なくらい、ひっそりとポイント灯の紫灯が紫陽花に溶け込んでいます.

この沢入に限らず、味のある駅が多いのです.大間々、上神梅、水沼、神戸、沢入、そして足尾の通洞、足尾と木造駅舎が残り、そのほかの駅もいったいどこが入り口やら商店の入り口やらわからない小中とか、単なる棒線なんですがなにか印象的な花輪とか、どの駅も昭和の香り、といってはアレなんですが、ひっそりとその村の歴史が息づいている感じでした.古い駅も新しい駅も、座布団が置いてあったり掃除がゆきとどいているのが印象的でした.一つ一つ、駅をたどりながら渡良瀬川を上流へ上流へ、雨が降ったりやんだりする空の下、しっとりとどこまでも静かな風景でした.


この鉄道の終点は、銅の町足尾.小学校の頃、足尾鉱毒事件と田中正造翁で習ったあの足尾です.1900年代初頭には日本の銅産出の1/3を担ったという大鉱山もすでに閉山し、町も急速に過疎化が進んでいます.夕暮れ時、空気が蒼く染まる午後6時過ぎ、本通をゆっくりと通っているとまばらな商店からは明かりが漏れていました.一軒だけの、夜には閉まってしまうコンビニでは高校生が買い食いをしています.スーパーマーケットなんてない、華やかさもまったくない、ひっそりとしたさびしげな町だけれどもゆっくりと暮らしは営まれているのでした.ここから山一つ抜けると日光、なんだか嘘のようです.